私は天使なんかじゃない








戦闘開始





  今こそ反転攻勢の時っ!





  ロボット工場、壊滅。
  ハンガー、殲滅。
  冷却ラボ、制圧。
  現在人類同盟軍はエンジンコアを本拠地とし、貨物倉庫から武器、弾薬、物資を強奪、立て籠もっている。
  エイリアン側の攻撃は失敗。
  この戦闘においてエイリアン側の弱点、使用している兵器の類が地球産の実弾系を圧倒しているわけではないことが露呈。また、エイリアン側の戦力の少なさも目立った。
  転送装置は現在こちらで押さえてある。
  一度は向こう側から切り、そして今回の攻撃の際に再び起動したのが仇となった。
  サリーだ。
  サリーがそれをロックした、こちら側からしか切れないようにした。
  一度切ると再び主導権は向こうに戻るとサリーは言ってたけど、切ることはしない。スイッチ入りっ放しだから絶えず攻撃の心配をしなければならないわけだけど、このお蔭で宇宙船の外に出て
  侵入口を作るという手順を飛ばすことが出来る。時間の節約ってやつだ。純粋に外に出るという無謀な作戦がしたくないというのもあるけど。
  何でって?
  そりゃ何のメンテナンスもされてない宇宙服で外に出たいかって話だ。
  しかも行くのは私だしな(泣)。
  ここに至り、人類同盟軍は反転攻勢に打って出ることとなった。
  そして……。



  「武器は、これでいいんだよね? もっと持ってくるかい?」
  「これぐらいでいいと思う、ソマー」
  エンジンコア。
  私たちの活動拠点。
  あの妙な大男がグレネードを弾き返した為、バリケード内にあった武器弾薬ごと消し飛んだんだけど……まあ、貨物倉庫には唸るほどある。それらをソマーたち収集班に任せているってわけだ
  Mr.クラブとポールソン、エンジェルは今も貨物倉庫でせっせと回収中、ターコリエンは冷却ラボから何か持って来て、それを弄繰り回してる。何してるんだ?
  インチキ医者のMr.サムソンは、それでも完全にインチキではないらしくアンカレッジ組の兵士2人の診察をしてる。
  サリーは新しい玩具を貨物倉庫から手に入れてきて、それで遊んでいる。
  微笑ましいですね。
  「サリー」
  「なあにー?」
  「転送装置の先は知らないのよね?」
  「飛んだ先は知ってるよ、そこから先は知らない」
  「なるほど」
  あれからエイリアンたちのアタックはない。
  反対に私たちが冷却ラボの残党勢力を一掃した。
  快挙ですね。
  ある一定以下のダメージを無効化するのか、ある一定以上の蓄積ダメージ量まで無効化するのかは知らないけど、バリア持ちのエイリアンはいなかった。今のところあのタイプに遭遇したのは
  私とサリーだけ。あのタイプだけは正直厄介だけど、グレネードは耐えれなかったから、対処法はグレネードでよいですね。
  「ミスティ」
  「何、ソマー?」
  「勝てると思ってる?」
  「まあね」
  「……」
  「何よ?」
  「銃の数や弾丸はたくさんある、でもそれを使える人数が少ない、今のところ解凍するつもりもない」
  「それが?」
  「数の差をどうするつもり?」
  苛立ったようにソマーは言った。
  分からんでもない。
  彼女の持つ苛立ちが、というのもあるけど、それ以上に私たちは対エイリアンで纏まっているだけで、腹を割って話し合える間柄ではないということだ。
  親しくなるには?
  コミュニケーションですね。
  問題はその時間がないってことだ。タイムリミットは無限のようで、そうあるわけでもない。エイリアン側は肉体的に脆弱だし、兵器も絶対的な攻撃力ではないけど、向こうがぶっ飛んだ考え方をし
  出したらさすがに負ける。空気を遮断するとか。毒ガスを使って来るとか。毒ガスは持ってるかは知らんけどさ。
  ともかく仲良し談義をする余裕はないってことだ。
  ……。
  ……あれ、これまずくね?
  下手したら空中分解する間柄ってことだ。エイリアンがいる内は、連中と戦っている内はいいけどさ。
  解放されてキャピタルに戻ったら敵対することもあるかもしれない。
  顔見知りと敵対かー。
  嫌だなぁ。
  「簡単よ、それは……」

  「だからっ! いい加減にしてくれっ!」

  「……?」
  何だ、今の声。
  男の怒声だ。
  私とソマーは顔を見合わせる。
  「サムソンの声じゃないかい?」
  「たよね」
  お互い武器を手に取って声の元に走る。
  声の元に。
  敵ってわけではなさそうだ。じゃあ兵士と喧嘩してるのか?
  武器は必要ではないと思うけど、喧嘩は和を乱す。武器を振りかざしてでも止めなきゃ。独善だし、暴力的だけど、喧嘩している場合ではないのは確かだ。このまま解決しても不和が残る
  だろうけどエイリアンとの戦いが終わるまでは和解している時間はない。和解は、その後ですればいい。
  診療室に駆け込んだ。
  正確にはエイリアンたちの薬品室。
  ……。
  ……たぶん薬品室。
  棚に陳列されたあのガラスみたいな入れ物に収まっているのが薬なのかは、知らん。
  「おい、行こうぜ」
  「ああ」
  兵士2人はそう吐き捨てて部屋を出て行った。
  私たちを一瞥、一応は会釈をしてからいなくなった。
  「ソマー」
  「分かったよ」
  兵士を追うソマー。私は残って、頭を抱えているヤブ医者に声を掛ける。
  「何があったの?」
  「立場の違いってやつだよ。あと、年代がターコリエンや彼らと近いってことも原因だね」
  「立場? 年代……ああ」
  察する。
  要は国家的対立ってやつだ。
  そうか。
  アジア系って括りでそれ以上は聞いてなかったけど、中国系なのか。
  「アンカレッジの絡み?」
  「そうなるな」
  「それで喧嘩を?」
  「別に2人は他意はないのだろう、それは別にいい。いいんだが、アメリカの勝利云々を延々と繰り返されるのも、面倒でね」
  「なるほど」
  ターコリエン同様に、誘拐された後どうなったかを兵士たちにも教えた。
  アメリカ万歳がしつこ過ぎるらしい。
  話題を変えよう。
  「2人に何か身体的に問題点は?」
  「どうだろうな、解凍時の影響は特にないと思うが……ヤブだから、というのもあるが……何とも言えん。正規の医者だとしても同じように答えるだろうよ」
  「でしょうね」
  何百年も冷凍し、解凍しても生きているなんて技術は当時でもなかったはずだ。
  たぶん。
  「外傷的には何ともないが……冷凍されている際の影響は、正直分からん」
  「そうね」
  宇宙飛行士の例もある。
  冷凍されている際に死んだのか、氷のオブジェ的に殺されて冷凍されたのかが分からない以上、冷凍時の危険性は何とも言えない。
  別のことも考える。
  アンカレッジの兵士2人はターコリエンに任せるとしよう、上官には従がうだろう。
  サムソンは遺恨を残すか?

  理性的な人物に見える、多少胡散臭いところはあるけど、そんな思慮のない行動をするようには見えない。
  とはいえコミュニケーションできてないから喧嘩は仕方ない。
  どんなに対エイリアンで纏まったとしてもまだ一日目だ。
  肩を叩き合い、腹を割るには時間が足りない。
  どっちにしろここはエイリアンの巣窟だ、逃げ場はない。少なくとも、エイリアンをどうにかしないことには逃げようもない。纏まるしかないわけだから、完全な和解の件は保留するしかない。
  この件は保留が一番だ、もちろんただ棚上げにはしない。
  全員に改めて説明はしなきゃ。

  「おーい」

  ポールソンの声がする。
  戻ってきたようだ。
  「どうする、ミスティ」
  「一度戻りましょう。集合して、今後の話し合い」
  「分かった。行こう」
  「ええ」





  全員集合。
  フィーさんと侍はおらず。どこに行ったんだ?
  ……。
  ……ま、まあ、フィーさんがいたら私らいらない可能性がありますけどもね。
  魔法ってやつ?
  あの威力は凄まじい。
  特に私はいらない子になる可能性大です。
  おおぅ。
  とりあえず集まったメンツに政治的なことや勢力的なことは口にしないように言っておいた。無用な喧嘩になるだけだからだ。
  武器は揃った。
  大量にね。
  この後は全員がコンバットアーマー着用ってことも決定済み。人数分以上のアーマーが床にたくさん転がっている。
  何故人数分以上って?
  サイズの問題だ。
  合わないのが人数分あっても仕方がない。
  「バックアップでここに2人ぐらい残して、残りで突撃。バックアップ組は要請があったら弾丸等を届けて。突撃組も後方組もどちらも危険だけど、頑張ろう」
  作戦立案は私。
  軍師ポジションらしい。
  まあいいけど。
  「だけどミスティ、分断するのはまずくないかい?」
  「ワーッと全員で突撃しても返り討ちにあうだけって言ったのはソマー、あなたよ」
  「そうは言ったけど……」
  「弾丸が尽きたら全滅するから、後方支援は必要。無線機を持って移動しましょう。要請したらよろしく。まだ誰かは決めてないけど」
  「だけど、勝てるのか?」
  ターコリエンの気弱そうな声。
  気弱?
  いいえ。
  誰にでもある、疑問だ。
  どんなに武器を揃えてもこちらの数は少数、悪者軍団は大勢いる。エイリアン兵器も多数だ。
  だけど……。
  「勝てるわ」
  私は頷く。
  あまりにもあっさりと言ったからだろう、全員が沈黙したまま私を見ている。
  依然として私の撃破数はゼロ。
  ……。
  ……あ、ある意味で奇跡的な戦果だと思います、はい。
  おおぅ。
  「どう勝つんだ、保安官」
  倉庫から見つけて来たのだろう煙草をくわえながらポールソンは言った。
  「簡単よ、私たちの方が強いから」
  「ははは。そりゃいいぜ。連中を見つけて撃つ、リロード、撃つ、でぶっ殺すわけだな。……で、そいつは正気かい?」
  「正気だし、勝機よ」
  「ほほう?」
  「私たちは各個撃破してそれぞれの施設を潰した。当然連中も黙ってなかった、エンジンコアに逆襲してきた。でも私たちはそれを跳ね返した」
  「でもミスティ」
  今度はエンジェル。
  「連中の戦力は分からないままよ」
  「たぶん大したことない」
  「根拠は?」
  「逆襲自体が大したことなかったから。本気で潰す気ならあの程度で終わるはずがない。じゃあ遊び? 違う。多分、あれが送れる最大の戦力だったと私は思う。持ち乱これから先も
  私たちよりも強大な戦力だろうけど、逆襲の規模から考えると大した戦力ではないわ。おそらく向こうには向こうの事情があるでしょうね、あれ以上送れない理由が」
  「それは、何?」
  「それは私にも分からない」
  肩を竦める。
  さすがにエイリアン事情は分からない。
  「ワーカーは支配される側である程度の監視がないと反乱する、とか? いずれにしても勝てないってことはないと思う」
  「ロボットは?」
  今度はソマー。
  「ロボットはもうないんじゃない? 工場潰したし」
  「既に生産されたのが……」
  「そもそも連中は誰と戦争してるのってこと。あのロボットは、まあ、宇宙船の警備用に配備されているだけだと思う。どっかの倉庫に完成品が大量にある? ない。連中は性質の悪い誘拐犯よ、別ら地球
  侵略用に兵力揃えてここにいるわけではない。少なくとも侍やカウボーイいる年代から地球の近くをうろうろしてるだけ。戦争目的でないのは明らか。ロボットを大量生産しておく必要があるかしら」
  「憶測でしょ」
  「そう」
  「だけど、確かにそうだね、そもそもあのロボットは兵器ではなく、船外の補修用かも知れないわね」
  憶測。
  憶測です。
  だけどあの場面で投入してこないところをみると、それも間違いではないと思う。
  仮定で突入する?
  どっちにしても長引けば私らが負ける。
  さあ。
  始めよう。
  「戦闘開始」